大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和56年(わ)92号 判決

本店の所在地

広島市南区東雲三丁目一二番一〇号

法人の名称

株式会社松万

代表者の住所、氏名

広島市南区東雲三丁目九番三号

松田初美

本籍

広島県広島市中区袋町四一番地

住居

同市南区東雲三丁目九番三号

会社役員

松田初美

昭和一四年八月二一日生

本籍

広島県広島市中区袋町四一番地

住居

同市南区東雲三丁目九番三号

会社役員

松田安司

昭和一五年一二月二〇日生

右松田初美および松田安司に対する各所得税法違反、株式会社松万および松田安司に対する各法人税法違反各被告事件について、当裁判所は検察官佐々木信幸出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。

主文

被告人松田初美を懲役一年二月および罰金一五〇〇万円に処する。

被告人松田安司を懲役一年二月に処する。

被告人株式会社松万を罰金三〇〇万円に処する。

被告人松田初美において、右の罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人松田初美、同松田安司に対し、この裁判確定の日から、いずれも三年間、その懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社松万は、昭和五四年一月一六日に設立され、広島市南区東雲三丁目一二番一〇号に本店を置き、家庭献立セツトの加工販売業を営んでいるもの、被告人松田初美は、昭和五一年八月一日から昭和五二年三月ころまでの間は同市南区出汐町六七三番地に、その後昭和五四年一月一五日までの間は、同市南区東雲三丁目一二番一〇号に事業所を置き、「松万」の名称で前記事業を営んでいたもので、同会社設立後は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているもの、被告人松田安司は、被告人松田初美を補佐して、前記「松万」及び同会社設立後はその取締役として同会社の経理等の業務を担当しているものであるが、

第一  被告人松田初美及び同松田安司の両名は共謀のうえ、被告人松田初美にかかる所得税を免れようと企て、

(一)  昭和五二年中における被告人松田初美の実際の所得金額が四八、七五六、六九三円で、これに対する所得税額が二四、二三〇、四〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外するなどの不正行為により所得を秘匿したうえ、昭和五三年三月八日、同市南区字品東六丁目一番七二号所在の所轄広島南税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、九四六、〇〇〇円で、これに対する所得税額が一八八、七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により同年分の所得税二四、〇四一、七〇〇円を免れ、

(二)  昭和五三年中における被告人松田初美の実際の所得金額が八一、二六六、四四七円で、これに対する所得税額が四六、四五四、五〇〇円であるにもかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿したうえ、昭和五四年三月一四日前記広島南税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五、一七一、二八三円でこれに対する所得税額が八二九、四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行偽により同年分の所得税四五、六二五、一〇〇円を免れ、

第二  被告人松田安司は、前記会社の業務に関し、法人税を免れようと歪て、昭和五四年一月一六日から同年八月三一日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が三五、五二九、五五一円で、これに対する法人税額が一三、六五一、六〇〇円であるにもかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿したうえ、昭和五四年一〇月二三日、前記広島南税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五、五八一、一九一円の欠損で、これに対する法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右事業年度の法人税一三、六五一、六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判事全事実

一  被告人松田安司の当公判廷における供述

判示冒頭の事実

一  商業登記簿謄本一通(被告会社分)

判示第一の(一)、(二)、第二の事実

一  被告人松田初美、同松田安司の検察官に対する各供述調書

一  被告人松田初美の大蔵事務官に対する昭和五五年四月一七日付質問てん末書

一  被告人松田安司の大蔵事務官に対する昭和五五年三月二六日付、同年四月一九日付、同年五月二六日付各質問てん末書

一  大蔵事務官藤井一成作成の昭和五五年七月七日付調査事績報告書(検27号)

判示第一の(一)、(二)事実

一  被告人松田初美の大蔵事務官に対する昭和五五年四月一八日付〔検43号〕、同年三月二五日付、同年四月三日付、同年四月四日付各質問てん末書

一  被告人松田安司の昭和五五年三月二七日付、同年四月七日付各質問てん末書

一  大蔵事務官杉本孝二作成の昭和五五年四月二日付調査事績報告書(検16号)

一  大蔵事務官藤井一成作成の昭和五五年七月七日付各調査事績報告書(検17、23、25、28号)

一  大蔵事務官岩崎清吉郎作成の昭和五五年七月七日付各調査事績報告書(検18、19、22、24号)

一  大蔵事務官松田作成の昭和五五年四月二日付調査事績報告書(検20号)

一  大蔵事務官村木茂外一名作成の昭和五六年一〇月六日付調査事績報告書(検85号)

判示第一の(一)事実

一  大蔵事務官村木茂外一名作成の昭和五六年一〇月六日付調査事績報告書(検84号)

一  大蔵事務官岩崎巌作成の脱税額計算書(検3号)

一  押収してある所得税確定申告書(昭和五二年分)一枚(昭和五六年押第九二号の4)

判示第一の(二)事実

一  大蔵事務官岩崎巌作成の昭和五六年六月八日付、同年一〇月二四日付各調査事績報告書(検74、86号)

一  大蔵事務官吉松隆外一名作成の昭和五六年一〇月六日付調査事績報告書(検87号)

一  押収してある所得税確定申告書(昭和五三年分)一綴(同押号の5)および青色申告決算書つづり一綴(同押号の6)

判事第二事実

一  被告人松田安司の大蔵事務官に対する昭和五五年三月二八日付(二通)、同年四月一七日付、同年五月七日付、同年五月八日付、同年六月四日付、同年八月七日付各質問てん末書

一  被告人松田初美の大蔵事務官に対する昭和五五年五月七日付、同年五月八日付各質問てん末書

一  大蔵事務官藤井一成作成の昭和五五年七月七日付調査事績報告書(検26号)

一  株式会社親和銀行広島支店長松本茂作成の証明書

一  大蔵事務官岩崎巌作成の脱税額計算書(検5号)

一  商業登記簿謄本二通(株式会社広島出版商事、有限会社松億の分)

一  押収してある社内販売台帳一綴(同押号の2)、経理関係書類一綴(同押号の3)、法人税決議書つづり一綴(同押号の7)

(争点についての補足説明)

一  被告人松田初美の昭和五三年分所得は、売掛金の貸倒れが、なお四八万五、三八〇円あるから、右金額だけ減額されるべきであるとの点について(判示第一の(二)の関係)

大蔵事務官藤井一成作成の調査事績報告書(検25号)および被告人松田安司の当公判廷における供述を総合すると、被告人らが貸倒れと主張する売掛金のうち、一部は翌年の昭和五四年中に発生したものであり、その余も昭和五四年以降債務者からの入金の事実が認められるから、昭和五三年末の時点において回収不能といえないことは明らかであつて、貸倒れの主張は理由がない。

二  被告会社の昭和五四年八月期の所得は、仕入高が、なお六六四万二、八五六円あるから、右金額だけ減額されるべきであるとの点について(判示第二の関係)

大蔵事務官藤井一成作成の調査事績報告書(検27号)および被告人松田安司の大蔵事務官に対する昭和五五年五月七日付、同月二六日付、同年六月四日付、同年八月七日付各質問てん末書を総合すると、被告会社は昭和五四年一月以降、仕入先との間に被告人松田安司(被告会社代表者の夫)が代表者の株式会社広島出版商事を介在させ、同会社を通じて食料品等の仕入を行い、同会社にマージンを取得させていたところ、昭和五四年七月以降は、被告会社の仕入業務を担当させることを営業目的の一として設立された有限会社松億(代表者は被告人松田安司)を通じて仕入れるようになつたにもかかわらず、依然として経理上前記広島出版商事を仕入れルートに介在させて、同会社に対してマージンを取得させており、さらに前記松億を介在させない仕入ルートについては前記広島出版商事に支払うマージンを約二倍に増額していたものであつて、かかる措置によつて被告会社は仕入先からの直取引の場合に比べて約二〇%も高値で仕入れることになつたものであるところ、被告会社がかかる措置をとるべき経済的合理性は全く見当らず、その狙いとするところは従前から赤字会社であつた前記広島出版商事に利益を取得させてその再建を図ることにあつたものであつて、結局被告会社の利益を圧縮し、これに見合う財産的利益を同系会社である広島出版商事に分与するものであつたと認められるのであつて、かかる措置は被告会社の寄付金とみるのが相当である。

(法令の適用)

一  被告人松山初美

同被告人の判示第一の(一)、(二)の各所為は刑法六〇条、昭和五六年法律第五四号附則五条により同法による改正前の所得税法二三八条一、二項に該当するので、それぞれ懲役刑および罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の重いと認める判示第一の(二)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、罰金刑につき同法四八条二項により各罰金を合算した金額の範囲内で同被告人を懲役一年二月および罰金一五〇〇万円に処し、右罰金を完納できないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

二  被告人松田安司

同被告人の判示第一の(一)、(二)の各所為は、刑法六五条一項、六〇条、昭和五六年法律第五四号附則五条により同法による改正前の所得税法二三八条一項に、判示第二の所為は前記法律附則五条により同法による改正前の法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重いと認める判示第一の(二)の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

三  被告人株式会社松万

同被告人の判示第二の所為は、昭和五六年法律第五四号附則五条により同法による改正前の法人税法一五九条一項、一六四条一項に該当するので、その所定金額の範囲内で同被告人を罰金三〇〇万円に処すこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 三島昱夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例